No,003:キタマクラ

No,003:キタマクラ Canthigaster rivulata (Temminck and Schlegel, 1850)

 

 

 フグ目フグ科の中には、○○キンチャクフグと呼ばれるキタマクラ属の仲間がいます。側面から見ると三角形に近い体型をしており、フグの仲間では比較的小型の仲間で、インド・太平洋と大西洋の主に熱帯域に分布しています。世界で36種、日本には11種が知られています。日本産11種の中で唯一「キンチャクフグ」という種名がついていないのが、今回紹介するキタマクラです。

 キタマクラは、以前紹介したコモンフグと同じく、シーボルト(Siebold)が日本で収集し、ライデン王立自然史博物館館長のテミンク(Temminck)とシュレーゲル(Schlegel)が新種として「Fauna Japonica(日本動物誌)」に新種記載しています。Fauna Japonicaでは学名がTetraodon rivulatusとされていまが、同じ論文の中で同時にTetraodon grammatocephalusとして新種記載された標本も、現在はキタマクラだとされており、現在本種の学名は、Canthigaster rivulata (Temminck and Schlegel, 1850)が用いられています。種小名のrivulataは、小川という意味があり、その名のような細い模様が体にあります。Tetraodon rivulatusの記載文を翻訳すると、すでに標準和名の「Kitamakura」と呼ばれていることや、非常に有毒であることから、市場に出すのは禁止されていることなどの記載があり、当時から人々に有毒魚だと認識されていたことがわかります。そのため、このような和名がついたのだと思われます。

 実際にフグの毒について詳しくまとめられたのは、谷(1945)の「日本産フグの中毒学的研究」で、それによるとキタマクラの体内にあるテトロドトキシンと呼ばれる毒は肝臓に弱毒(10-99MU※1)、皮と腸に強毒(100-999MU)があるとされ、筋肉、卵巣は無毒となっています。その後、仲谷ほか(2016)により2個体のキタマクラについて毒性が研究され、筋肉と内臓は検出限界以下で、皮にテトロドトキシンで最高59MU、麻痺性貝毒で最高2.8MUの濃度が検出され、主に皮に毒が含まれていることが明らかになっています。

 キタマクラは繁殖生態が報告されている数少ないフグ科魚類です。荒井・藤田(1988)の報告では水槽内の産卵行動が観察されており、それによるとオスがメスに対して体側を誇示するような求愛行動を見せ、産卵は互いに腹部を押し付け合うようにして静止し、放卵放精したとなっています。海響館の水槽内では、水槽底に敷いてある砂にくぼみをつくり産卵した記録もありますが、水槽内と屋外では環境が異なるようで、最近では野外で海藻の中に産卵する様子が観察されています。

 

 

 荒井・藤田(1988)の中では、キタマクラの雌雄差についても述べられており、メスは、体側に2つの明瞭な暗色帯があり腹部は白く、二次性徴が現れたオスは頭部の腹面に鮮やかな藍紫色があります。Fauna JaponicaでTetraodon rivulatusとされている図と荒井・藤田(1988)を見てみると、藍紫色はあまり出てはいませんが、体側の2つの明瞭な暗色帯は薄く、背面の模様も複雑なことから、オスである可能性があります。

 キタマクラは、房総半島以南では普通に見られますが、山口県では珍しく2004年と2008年に萩市で、2012年と2017年に下関市で、これまで6個体しか得られておらず、いずれの標本も萩博物館に収蔵されています。もし山口県でキタマクラを捕まえたら是非海響館までご一報ください。

 

※MU:マウスユニット、体重20gのマウスを30分間で死亡させるのに必要な毒量。

 

引用文献:

荒井 寛・藤田矢郎.1988.キタマクラの水槽内産卵と卵発生・仔魚.魚類学雑誌,35:194-202.
松浦啓一.2017.日本産フグ類図鑑.東海大学出版部,秦野.Xiv+127pp.
仲谷 正・清水 充・山野哲夫.2016.キタマクラ(Canthigaster rivulata)中のテトロドトキシン(TTX),および麻痺性貝毒(PSTs)の含有量と組成について.食衛誌,57(2):51-56.
谷 厳.1945.日本産フグの中毒学的研究.103pp.帝国図書.
Temminck, C. J. and H. Schlegel. 1850. Pisces, Last Part. In von Siebold, P. F (ed.): Fauna Japonica, sive description animalium quae in itinere per Japoniam susceptor annis 1823-30 collegit, notis observationibus et adumbrationibus illustravit. Lungdunum Batavorum, Leiden, pp. 270-324.

 

魚類展示課 園山貴之

2019年03月08日