赤ちゃん誕生の裏側

 2009年7月26日22時58分、海響館のスタッフが待ち望んでいた瞬間、バンドウイルカ『ティアラ』の赤ちゃんの誕生!!生まれてすぐに、水面に向かって泳ぎだし呼吸をした後、お母さんと一緒に泳ぎ始めた姿を見て、ほっと一安心したものでした。あの日から早くも3ヶ月が過ぎようとしています。今は他のイルカ達とも泳いだり、元気よくジャンプをしたりと、本当に活発に生活しています。(日々の様子は赤ちゃんの成長日記をご覧下さい)
 こんな風に、ここ海響館でバンドウイルカの赤ちゃんが元気に育ったのは、今回が初めてなんです。そのためスタッフの感動もひとしお。でもその裏側では、様々な苦労があったんです。今回はそんな出産の裏側を紹介しましょう。
 バンドウイルカの妊娠期間は約1年です。妊娠がわかってから、赤ちゃんが順調に大きくなっているか確認する為に、定期的に超音波検査を行いました。また普段からも定期的に行っている血液検査は、妊娠が問題なく維持されているか、またティアラの健康状態は良好かを確認する為に、頻度をあげて行いました。さらに、バンドウイルカは出産が近づくと体温がおよそ1度下がると言われています。その為、出産の兆候を見逃さないように、出産予定日が近づくと、朝晩2回の体温測定も行いました。このように様々な検査を行ってきました。
 その他、ティアラは出産直前までアクアシアターに参加して体を動かしていましたが、過度な刺激を赤ちゃんに与えない為に、お腹を打ち付けるようなジャンプを中止したり、お腹に体重がかかるスライドアウト(陸上にあがること)も中止したりと、行動も制限しました。

 注意をするのは、ティアラのことだけではありません。一見何にもないように見えるイルカ達のプール。しかしその側面には、様々な凹凸があります。またプールを仕切るゲートには細い隙間があります。およそ120cmで生まれてくる小さなイルカの赤ちゃんにとって、このような隙間は、頭や体が入り込んでしまうので、大変危険なものです。その為、そのような隙間などに網目状のネットを張り、壁を作りました。またプール周辺のステージの縁は、内側に出っ張っています。満水のままでは、赤ちゃんが水面に出ようとする時に、その出っ張りにひっかかり、溺れてしまうかもしれません。その為出産時はプールの水位を下げることにしました。ただ、出産だ!という時に急に水位が下がり環境が変わると、ティアラも不安になるかもしれません。そこで事前にその環境にティアラも慣れてもらう為、出産の前から、1週間に1度プールをその水位まで落水し給餌を行い、違う環境でもイルカ達が落ち着けるようにしました。他にも赤ちゃんにとって危険なものがないか念入りに確認し、安全な環境を作りました。 イルカ展入口



 様々な準備が整った後、いよいよ出産予定日が近づいてきました。スタッフは交代で、24時間体制でイルカ達の観察を続けます。夜中の当番の時は、時に睡魔が襲ってきます。でも、小さな変化も見落とすまいと必死で観察を続けました。そして出産の瞬間を向かえたのです。
 でも出産が終わってからもまだまだ観察は続きます。赤ちゃんが、ちゃんとお母さんからお乳をもらっているのか、泳ぎはちゃんとしているか、お母さんイルカではない他のイルカ達とも仲良く泳いでいるかなど観察事項はたくさんあります。赤ちゃんが生まれてからの観察も日中だけでなく24時間、交代で行っていました。赤ちゃんが安全に泳いでいることを確認できた後、出産してから8日間続いた24時間体制での観察は終わりました。

 こんな風にたくさんの苦労があっても、毎日元気にプールを泳ぎ回る赤ちゃんの姿を見ると、疲れもどこかへいってしまいます。生まれた時は、小さいと思っていた赤ちゃんも、たくさんのお乳を飲んで、今では推定160cmほどまでに成長しています。これからも赤ちゃんが元気に育つことを、みなさんも温かく見守って下さいね。
イルカの全身骨格標本


海獣展示課 松井 益美
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