第70回 お腹の中は…

 さむーいこの季節、たくさん食べて元気いっぱいに過ごしたいですね。海響館のイルカたちも、毎日たくさんのお魚を食べています。しかし時に、とんでもないものを食べてしまうことがあるんです。今回は、食べ物ではないものをうっかり飲み込んでしまったイルカ「パール」についてのお話です。

 海響館のイルカプールには、立派な大屋根があるものの、風の強い日には海風がビュービューと吹きぬけます。その日もとても風の強い日でした。風に飛ばされた青い大きなビニール袋がプールに落ちてしまったのです。目ざとく見つけたパールはそのビニール袋をくわえてしまいました。海響館のイルカたちはビニール袋などの異物をトレーナーのところに持ってくるようにトレーニングしているのですが、その時のパールはビニール袋を持ったままプールの底に潜ってしまったのです。そして、次に水面に出てきたときにはもうビニール袋は無くなっていました。私たちスタッフは慌ててプール内を探しましたがどこにもなく、状況からパールが飲み込んだとしか考えられませんでした。イルカは魚を消化することができても、ビニール袋は消化することができません。お腹のどこかに引っかかって、詰まってしまったら大変です。
 イルカは異物を飲み込んだ後、自力で吐き出すことがあります。私たちは、数日様子を見ることにしました。しかし、2週間経っても、パールがビニール袋を吐き出した様子はありませんでした。こうなると、無理にでも吐かせるか、なんとかしてビニール袋を胃から取り出さなければなりません。そこで、内視鏡を使って胃の中の様子を確認して、ビニール袋を取り出すことにしました。朝早く集まったスタッフは、プールの床を上げて、パールを担架に乗せました。検査の間、パールの身体は半分以上水の上に出た状態になるので、スタッフはずっとパールの身体が乾かないように海水をかけ続けなければなりません。続いて、パールが口を閉じないように、パイプを噛ませて内視鏡を入れていきます。口から1m程挿入したところで胃に到達し、胃液でぐちゃぐちゃになった白っぽいビニール袋や葉っぱなど、いろいろなものが画面に映し出されました。パールは、私たちスタッフの見ていないところで、他にもたくさんの異物を飲み込んでいたのです。しかし、目的の青いビニール袋は確認できませんでした。
担架に乗ったパール
担架に乗ったパール
体が乾かないように
体が乾かないように
内視鏡での検査
内視鏡での検査
最終手段
最終手段
取り出されたゴミ
取り出されたゴミ
 「一体どこに?」という思いを持ちながらも、とにかく内視鏡に映し出されたこれらの異物を取り出すことにしました。異物を取り出すには、鉗子(かんし)という道具を使います。この道具は、先端が物をつかむことができるようになっています。しかし、胃液に長時間浸かっていたビニール袋は思ったよりももろ脆(もろ)くなっており、つかむことはできても引き出す途中でちぎれてしまいます。これでは取り出せないと判断し、奥の手を使うことにしました。それは、人間の手です。イルカの食道は、サバなどの大きな魚も丸飲みにできるほど太く、腕の細い人ならば腕を入れることができます。今回は、海響館でいちばん腕が長く細いスタッフが挑戦しました。腕を入れる瞬間は、皆が緊張します。もちろん一番緊張したのは腕を入れた本人でしょう。彼は見事にビニール袋や植物片をつかんで引き出しました。
 検査を終えた後、パールは何でもなかったかのような顔をしていました。さて、目的の青いビニール袋はというと、最近、他のイルカがバラバラになった青いビニール袋の破片をくわえているときがあるので、少しずつ回収しています。どうやらパールは、私たちが知らない間に青いビニール袋を自力で吐き出し、それを他のイルカが飲み込んでいたようです。今回はパールの胃の中をのぞきましたが、他のイルカもビニール袋などを飲み込んでいる可能性は十分にあります。
 みなさんに、お願いです。ゴミなどが落ちていると、風で飛ばされてプールに入ってしまうことがあります。ゴミは必ずゴミ箱に捨ててくださいね。また、自然の海でも同じです。人間の出したゴミで、海に住む生き物が病気になってしまうのです。ルールを守って、人間も動物も豊かに生きていける環境を作りましょうね!

海獣展示課 堀内 悠
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