あくあはーつ通信

vol.243 アレは何ですか?

 「アレは何ですか?」 ある日曜日の午後、サンゴ礁水槽の前で年配の男性から声をかけられた。ちょうどその「アレ」をカメラに収めていた時だった。

 「ニセゴイシウツボと言いますが・・」
サンゴを背にニセゴイシウツボが異様な感じで上半身、否、前半身を砂の中から突き出している。一見、イルカの頭部かと錯覚しそうで男性も不思議に思われたのかも知れない。身体は中央部付近でほぼ直角に折れ曲がっている。 こんな姿勢で苦しくないの? と考えるのは人間を基準にしての思いで、彼にはこれが最も安楽で安全な姿勢なのだろう。頭部の黒く見える眼が、丸く大きくなったり細く小さくなったり十数秒ほどの間隔で繰り返している。

 口の開閉が連動しているように見える。苦しいどころか、どうも白河夜船のようだ。春の海ではないが、「ひねもすのたりのたりかな」の雰囲気が周辺にただよっている。夜行性だから今夜の狩りに備えているのだろうか。

 

 眼を開閉できる魚は、硬骨魚類ではフグ類だけかと思っていたがそうでもなさそうだ。トラフグは、眼の周りの皮膚を、巾着袋を絞るようして閉め、同じくフグ仲間のマンボウは、眼の内側にある白い皮膚が、後方、前方から向かって寄せ集まって眼を隠すが、ニセゴイシウツボはどのような仕掛けになっているのだろうか?

 といろいろ想像していたが、実はトンデモナイ誤解で、黒い点は眼ではなくエラ孔であった。タイやコイのようにエラ蓋がないから分りにくい。 口と連動していることで気付くべきだった。

 改めてよく観ると、ウツボの眼は頭部の先端付近で「ガッ~!」と仁王様の様に睨んでいるが、体の割には非常に小さい。これを擬態と言ってよいのなら、もう少しでその擬態の罠にはまるところだった。紛らわしいエラ孔だ。

 

 そんなことを考えていると、件の男性は、
「アレは何ですか? あの黒くて長いのは?」
砂の上にゴロンと転がっていてほとんど動かない黒い30cmほどの棒のようなものを指差している。
「あれはナマコで、ニセクロナマコです」と答えたところ、
「ナマコですか・・・ マンボウのフンとそっくりですね 」と男性。
「えっ? マンボウは、あんなフンをするのですか?・・」と驚いて聞くと
「大分のマリンカルチャーセンターで見ましたよ。太くて長いのを・・」
と男性は自信たっぷり。

 

 まさか、マンボウのフンがニセクロナマコに似ているとは、考えもしなかった。消化能力が弱い魚のためか、一般の魚より腸が長いと聞いている。腸での水分吸収が多いからなのだろうか。

 マンボウの飼育が試行錯誤のころ小さなエビを与えたら、そのままの形で排出されたといった話を聞いたことを思い出した。排泄物は健康のバロメーターの一つ。ニセクロナマコの様なフンの持ち主は、どんな体調だったのだろう。

 

 マリンカルチャーセンターに問い合わせてみた。

通常は、いわゆる拡散するフンで、たまたま珍しい場面を見られたのではないかということだった。男性が言われたようなフンをするケースもあるらしい。

 

 今日は、ニセがつく生物の質問が続いたが、話題はナマコからいつも質問の多いスターフィッシュ:マンボウへ移ってしまった。ナマコも心臓を初め、目、耳,鼻を持たない省エネの模範生、興味深い話題が多いのだが・・・・・。

解説ボランティア:唐櫃 山人

2017年11月30日