No,010:シマキンチャクフグ

「No,010:シマキンチャクフグ Canthigaster valentini (Bleeker 1853)」

 

 

 シマキンチャクフグは小型のフグ科魚類で、体色は白地に黄色味のある点状の模様と、鞍のような黒斑があり、日本では本州中部以南に分布しています(松浦,2017)。体色には雌雄差があることが知られており、オスでは眼の周りにオレンジと青色の線が放射状になり、総排泄孔前方に黒いシミのような模様があるのに対し、メスではそのような模様はありません(Gladstone, 1987a)。

 

 

 シマキンチャクフグと、カワハギ科のノコギリハギはよく一緒に解説されています。なぜでしょう。実は、その姿を見ていただければわかるように、体の模様がそっくりなためです。一見するとまるで同じ種のようにも見えるほどです。これは有毒のシマキンチャクフグにノコギリハギが擬態しているからと考えられています。擬態のわかりやすい例なのか、多くの書籍や水族館でこの2種についての解説をしていました。

 

 

 しかし、シマキンチャクフグの毒について詳細な報告はこれまでにありませんでした。2020年になって海響館スタッフも共著者になっているZhu et al. (2020)によって、ようやくフグ毒と呼ばれるテトロドトキシン(TTX)とサキシトキシン(STX)の両方を持ち、オスも有毒であることがわかりました。では今まで何を根拠に有毒とされてきたのでしょうか。

 

 文献を調査すると、最も初めにシマキンチャクフグの毒について報告したのはGladstone (1987b)でした。その報告によると、シマキンチャクフグの受精卵と仔魚(ふ化してすぐの状態)、毒を持たないデバスズメダイの受精卵と仔魚を他の魚に食べさせようとしたところ、シマキンチャクフグの受精卵と仔魚は、捕食魚が咥えた後、すぐに吐き出す行動が観察できたようです。それとは対照的にデバスズメダイでは受精卵も仔魚も捕食されました。この報告では、シマキンチャクフグが有毒である可能性を示していますが、卵とそこからふ化する仔魚についてのみの報告で、卵を産んでいないオスが有毒かはわかりません。

 

 次に報告されているのはHwang et al. (1992)の台湾でのフグ毒研究の報告です。これは台湾産のフグ25種の筋肉、皮、肝臓、腸、卵巣、精巣の毒力について調べられています。結果を見ると、シマキンチャクフグの精巣はデータがなく(4 MU/g以下はデータなし)、これもGladstone (1987b)と同様に、オスの毒については不明です。またHwang et al. (1992)の報告は毒の種類までは調べられていませんでした。

 

 シマキンチャクフグの毒について書いている報告はほかにもありますが、いずれもGladstone (1987b)と、Hwang et al. (1992)のどちらかを引用しており、なかにはフグ科ということや、他のキンチャクフグの毒もTTXを持つと考えられていることから、シマキンチャクフグの毒はTTXだと確かな根拠もなく書いてあるものもありました。

 

 2019年にシマキンチャクフグの解説をつくろうと、裏付ける論文を探していたところこのような状況に気づき、世界一のフグ水族館として曖昧なままで解説することはできない!と、長崎大学、国立研究開発法人水産研究・教育機構 水産大学校と海響館の3機関共同でシマキンチャクフグの毒性について調べることになりました。結果は先述の通りです。

 

 これまで当たり前に言われていたことが、実ははっきりわかっていないことだったりすることはよくあります。皆様も周りの情報を鵜呑みにせずに、調べてみてください。新たな発見があるかもしれません。海響館は今後も新たな知見を発信できるように頑張ります!

 

引用文献:

Fricke, R., Eschmeyer, W. & Fong, J. D. 2020. Eschmeyer’s Catalog of Fishes. http://researcharchive.calacademy.org/research/ichthyology/catalog/SpeciesByFamily.asp (参照2020年9月5日)

Gladstone, W. 1987a. Role of female territoriality in social and mating systems of Canthigaster valentine (Pisces: Tetraodontidae) evidence from field experiments. Marine Biology, 96: 185–191.

Gladstone, W. 1987b. The eggs and larvae of the sharpnose pufferfish Canthigaster valentine (Pisces: Tetraodontidae) are unpalatable to other reef fishes. Copeia, 1: 227–230.

Hwang, D. F., Kao, C. Y., Yang, H.–C., Jeng, S.–S., Noguchi, T. & Hashimoto, K. 1992. Toxicity of puffer in Taiwan. Nippon Suisan Gakkai, 58:1541–1547.

松浦啓一. 2017. 日本産フグ類図鑑.東海大学出版部, 秦野. xiv + 127 pp.

Zhu, H., T. Sonoyama, M. Yamada, W. Gao, R. Tatsuno, T. Takatani & O. Arakawa. 2020. Co-Occurrence of Tetrodotoxin and Saxitoxins and Their Intra-Body Distribution in the Pufferfish Canthigaster valentini. Toxins, 12, 436. doi: org/10.3390/toxins12070436.

 

魚類展示課 園山貴之

2021年01月17日