No,011:キスジイトマキフグ

「No,011:キスジイトマキフグ  Kentrocapros flavofasciatus (Kamohara 1938)」

 

 

 日本から報告されているイトマキフグ科魚類は,イトマキフグと今回紹介するキスジイトマキフグの2種しか知られていません.今では標準和名はキスジイトマキフグとされていますが,記載論文と,Matsuura & Yamakawa (1982)では「キスジイトマキ」とされていましたが松浦(1984)以降はキスジイトマキフグが一般化していたため,池田(2003)でもキスジイトマキフグとしています.

 

 これまでにキスジイトマキフグは国内では和歌山県白浜,愛媛県大島,高知県御畳瀬,奄美大島から報告され(Matsuura & Yamakawa, 1982;松浦,1984;池田,2003;林・荻原,2013),日本海ではKim & Kim (2017)で平戸島から対馬の間(129°16’E,33°34’N)の水深100 mで採集されています[Kim & Kim(2017)の論文中では済州島北東海域と記載].それ以外では沖縄島の水深350 m付近でROVにより生体の映像が撮影されています[沖縄美ら海水族館のHP(https://churaumi.okinawa/fishbook/1610173126/)].

 

 イトマキフグとキスジイトマキフグには形態的に違いがあり,イトマキフグは体を被う甲板に多くの棘があるが,キスジイトマキフグは棘はなく平滑とされています(松浦,1984;山田ほか,2007;林・萩原,2013).

 また形態以外にも体色に違いがあります.キスジイトマキフグは極めてまれな種であるため,新鮮な標本の入手が困難であることや,死後の褪色が短時間で進むことから池田(2003)の報告まではごく簡単に触れられている程度でした.しかし,池田(2003)では和歌山県白浜で採集された標本の体色について詳細に報告しています.それによると,体背面の地色はオリーブ色で,瞳孔よりも小さい焦げ茶色の斑点がある.体側の地色は強い青色で,体側にある3本の隆起線に沿って黄色い帯がある.体の腹面は白いとされています.それ以外にキスジイトマキフグの体色が鮮明に載っている文献は限られていますが,松浦(1984)でも各隆起線には黄色の帯が認められますが,沖縄美ら海水族館のHP(https://churaumi.okinawa/fishbook/1610173126/)を見ると,よくは似ていますが,体側の青色は半分より背側のみで,体側にある腹面に近い隆起線には黄色の帯は見えません.しかし,同様に山田ほか(2007)でのスケッチでも描かれておらず,Kim & Kim (2017)でも黄色い色はわずかに確認できますが不明瞭で,それ以外の配色は池田(2003)の報告とよく似ています.

 

 実はキスジイトマキフグと同定できる個体は1個体だけ海響館にやってきたことがあります.残念ながら搬入した時の状態も悪く,展示することはできませんでしたが,対馬沖の日本海で採集されたもので,現在は萩博物館に収蔵されています.

 しかし,形態はこれまで報告されたキスジイトマキフグと同じだと思いましたが,体色は体表に傷がたくさんあったものの,池田(2003)とは異なっていました.生時には背面に黒い斑点がありますが,その斑点は体側の背側にもあり,隆起線にある黄色い帯は見られず,体側にはうっすらと青い色が見られるのみでした.この体色はアルコール固定標本の体色と似ており(Matsuura & yamakawa, 1982),状態によっても変わるのかもしれません.また,ハコフグ科ハコフグ属魚類は成魚では体色の雌雄差があることが分かっていますが,キスジイトマキフグも,アルコール固定時の体側にある黒色の斑点の数がメスのほうが少ないことが知られており(Matsuura & Yamakawa, 1982),この体色の違いがそのようなものなのかどうか今後調査したいと思います.

 

 いつかその解説とともに皆様に生きた姿を見ていただけるように頑張りたいと思います!

 

引用文献:
林 公義・萩原清司.2013.イトマキフグ科.中坊徹次(編),p. 1722, 2238.日本産魚類検索―全種の同定 第3版.東海大学出版部,秦野.

池田博美.2003.紀伊半島から採集されたキスジイトマキフグとその鮮時の色彩に関する新知見.I. O. P. DIVING NEWS, 14: 2–3.

Kim K.–M. & J.–K. Kim. 2017. New record of Kentrocapros flavofasciatus (Kamohara, 1938) (Tetraodontiformes: Aracanidae) in Korea. Korean Journal of Fisheries and Aquatic Sciences, 50: 589–593.
松浦啓一.1984.イトマキフグ科.益田 一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編),p. 327, 347.日本産魚類大図鑑.東海大学出版部,新宿.

Matsuura, K. & T. Yamakawa. 1982. Rare boxfish, Kentrocapros flavofasciatus and K. rosapinto, with notes on their relationships. Japanese Journal of Ichthyology, 29: 31–42.

山田梅芳・時村宗春・堀川博史・中坊徹次.2007.水産総合研究センター叢書 東シナ海・黄海の魚類誌.東海大学出版部,秦野.Ixxiii + 1262 pp.

 

魚類展示課 園山貴之

2021年06月21日