イルカ・アシカ情報

第212回「色々できるようになるまでに」

 私たちトレーナーが良く使う専門用語として、「脱感作(だつかんさ)」という言葉があります。皆さんにはあまり馴染みのない言葉だと思いますが、簡単に説明すると「刺激に対して動物に慣れてもらう」ということです。実は、この脱感作は動物たちが色々なことをできるようになるため、また皆さんに動物を知ってもらうために必要不可欠なものなのです。

 水族館の動物に限らずペットなども同じで、飼育している動物たちは日々様々な刺激を受けています。例えば、「人が動物の体を触る」という、ありふれたように思うことも動物たちにとっては刺激の1つになります。最初は急に体を触られたらびっくりしてしまいますので、まずは小さな範囲を短い時間やさしく触ることからトレーニングを始め、少しずつ触る部分を大きくしたり、触る時間を長くしたりすることで動物たちに「大丈夫だよ」と伝えていきます。この手続きが「脱感作」です。他にも、飼育環境を変える時や新しい道具をトレーニングに使う時など、脱感作が必要な場面は数多くあります。慣れる速さは個体によって違い、慣れるのが早い個体もいれば、時間がかかる個体もいるため、その個体にあったペースで進めていく必要があります。大切なのは、動物が嫌なことを「我慢する」のではなく、その刺激を受け入れて「慣れる」ということなのです。

 それでは実際の例を紹介しましょう。下の写真は、アシカのボールバランスに向けたボールへの脱感作を簡単に示したものです。まずはボールを近くにおいた状態で給餌することからはじめ、まずはそれが怖いものではないと理解できるように脱感作していきます。

 ボールがあることに慣れてきたら、次にボールを体に当てる、鼻に当てると脱感作をしていきます。

 そして、ボールに対して動物が怖がらなくなったらはじめて、ボールを乗せてバランスをとるトレーニングができるというわけです。

 また、お客様にイルカを触っていただくイベントでは、イルカたちにとっては「触る」刺激の他にも「カメラのフラッシュ」「周りにたくさん人がいる」などの刺激があり、それぞれに対して脱感作が必要になります。これらの脱感作を丁寧に行うことで、お客様に「触る」という体験を通じて動物のことをさらに知ってもらうことにつながっているのです。

 小さなことでも動物たちの刺激になりうるものは数多くあります。動物たちが色々なことができるように、私たちは常に脱感作を意識しています。

海獣展示課

髙木 陽友美

2020年01月10日