解説ボランティアによる イルカの視覚・視力と運動能力の研究調査
解説ボランティア 福井 正嘉
<第六回 
イルカの視覚・視力って?>

1.イルカはボールが見えていない?
2.イルカはボールが見えている?
3.ジャンプの成功・不成功
4.イルカ2頭によるボールジャンプの連続写真での確認
5.イルカのつぶやき
6.あとがき




 先日、元海響館のベテラントレーナーの渡辺さんに偶然あう機会がありました。現役の時ショーの最中、直ぐ近くに来られたので「今ジャンプしたイルカの名前は?」とつい声を掛けてしまって後か-らお叱りを受けたことがありました。ちょうどイルカの「ジャンプ成功率」を調査していた頃です。 ショー中のトレーナーは笑顔で楽しそうにみえますが、考えてみれば「海獣」との正面からの対応です。いくら訓練されているとは云え一瞬の油断で何が起こるかわかりません。真剣勝負なのですうかつでした。今回はゆっくり興味あるお話を聞くことができました。そのことも含めて約3ヵ月間の調査・実験の結果をもとに、最後に独断と偏見でまとめてみました。

1.イルカはボールが見えてない?
 今まで調査したことから、イルカは水中からはボールがはっきり見えていない?のではないかと思われることをリストアップしてみますと、
1 イルカは水中では視力は0.11で近距離視界(1m以下)が優れている。従って水中から水上6mのボールを見るのは難しい?。 
{空中では視力0.083で遠距離視界(2.5m以上)が優れている}
2 視界は真頭上には190度にわたり盲点がある、視軸は前後方向にあり、両眼視野もその存在がはっきりしない。
即ち水平遊泳中のイルカは頭上が見にくい?。
3 水中写真から、水中から見たボールは波により分割して見えたりして非常に識別しがたい、ジャンプ直前に色々のパーフォーマンスの結果海面上に泡が多い場合、瞬間的に見えなくなったりする。
4 渡辺元トレーナによるとアシカショーの後、左右に移動したボールをもとの位置に正確に戻さず上下だけ調整してイルカにボールジャンプをさせると、イルカはアレ?という顔(どんな顔?)で首を振ってボールタッチをしようとする。(ボールの左右位置に関係なくジャンプしている証拠?)
 これらのことからイルカがトレーナーのジャンプ指示を受けてからボール下近くのジャンプ位置に来るまで海面上約6mにあるボールはあまりよく見えていないのではないだろうかという疑問がわいてきます?
 それではどのようにしてその位置にたどり着くのでしょう?それは訓練とエコロケーションではないでしょうか。訓練では最初ボールが低い位置からスタートし徐々に高度を上げていくので経験的にどの程度ずれるか体得できるはずです。すでに千回近くジャンプ実績を持っていることも大きな強みです。その間イルカは「エコロケーション」と「繰り返し学習効果」でジャンプ位置を認識しているのではないかと思われます。
 水中でのエコロケーションの精度は視力に比べ格段に良く、水中数m先の小さなターゲットを識別できると云われています。従ってイルカはプールの水面下の形状から飛び出す位置を認識しているのではないかと思われます。
 トレーナーが海中から空中へ勢いよくジャンプする「ロケットジャンプ」を行っている岡崎トレーナーは、イルカに足裏から押させ潜水移動中プールの壁の変化(レストランのアクリル窓など)を見ながら空中へ飛び出す位置を目測していると聞いています。イルカもエコロケーションで同様の判断をしているのではないでしょうか。 ロケットジャンプの写真
ロケットジャンプ


2.イルカはボールが見えている?
 しかし一方、水中でも目はジャンプに大いに寄与していると思われる事実もあるので話しは難しいのです。しながわ水族館では片目を1ヵ月以上閉じたまま開かなかった個体(H14.12.3現在治療中)が、ハイジャンプ時ボールよりかなりずれた位置にジャンプしたと同館の遠藤獣医に伺いました。
 又和田課長によるとイルカがジャンプ直前、体を斜めにし片方の目を水面方向に向ける場合があるらしいのです。これは視覚でターゲットを視認しようとしている行動かも知れません。(ただし、この調査期間中、海響館ではこの動作はまだ確認出来ていません。)
 また渡辺元トレーナーは、イルカが色々と芸をした後の水面は相当泡立っている。そんな時にボールジャンプの指示をだしても中途半端な飛び方をすることがある。イルカも見えない状態では不安でしょう、と。
 これらのことは、今2個あるボールに対してそれぞれのイルカが目標ボールを決められていますが、これを変更してジャンプさせれば確認できるかもしれません。
 即ち海側ボールをジャンプできる様にセットし、山側ボール組のイルカにジャンプさせるのです。もし目でボールを視認せず、従来どおりエコロケーションのみでジャンプすればジャンプ位置は大幅にずれるはずです。もし上手くボールにタッチできれば水中からでもボール位置を確認していたことになり、エコロケーションのみでなく目視情報も使われていたことになります。

3.ジャンプの成功・不成功
 ジャンプが成功するかどうかは上記の「飛び出す位置」と「跳躍高さ」(即ち飛出時の速さ)が大いに関係してきます。水中と空中における光の屈折率の差による目標のずれは、これらの2つの条件が適当であればイルカは体を捻るなり、首を振るなりして水平方向のずれを修正してボールにタッチしようと努力します。「跳躍高さ」が適当ということは、跳躍力は個々のイルカによって異なるので結局はボール高さの設定が適当であるということになります。
 渡辺元トレーナによると、複数イルカが同時にジャンプする場合、何かの理由でいつもの自分の位置(コース)と異なったポジション取りになったりすると危険を感ずるのかジャンプが不充分なものになることがあるそうです。
 第1回目の時、イルカがやる気がないときには途中でジャンプをやめることがあると書きましたが、これは必ずしも正しい表現ではなさそうです。ポジション取りが上手く行かず危険を避けたのかもしれません。
 今回調査した範囲ではボールタッチ成功率は74%でしたが、これはすでに記したように人的要素も加味されているので必ずしも全てイルカの能力だけの成績ではありません。逆に失敗して再挑戦し成功したケースでは観客の受けはよい場合がありショーとしてはこちらが成功といえそうです。


4.イルカ2頭によるボールジャンプの連続写真での確認
 イルカのボールジャンプの動きを更に細かく見るため連続写真で確かめてみました。素人写真なので多少ピントがずれていますがイルカの動きはわかると思います。
 撮影時間は2秒間で16コマ、最初は左上からスタートし右へ、3コマ目で左側(山側)のイルカが初めて顔を出しています。5コマ目で右側(海側)のイルカも頭出し開始、10コマ目で左側はタッチ、12コマ目で右側もタッチ。頭出しからボールタッチまでは約1秒間です。
 写真の角度からでは左のイルカは一直線にボールに向ってジャンプしている様に見えます。
 7度ほどの視差があってジャンプ後調整しているようには見えません。右のイルカはボール近くで随分体を捻ってジャンプしているように見えます。これは多分方向が少しずれているのを修正しているのかも知れません。

ボールジャンプ 連続写真


5.イルカのつぶやき
 まだまだ疑問な点が多いのですがイルカは多分次ぎのようにつぶやいているのではないでしょうか?
 ※これはあくまでも個人的な見解で、専門家の学問的裏付けがあるものではありません。
 皆さんはどの様に思われますか。ジャンプ成功の時は水面から一直線にボールまでジャンプし、失敗の時は左右方向より上下方向のずれ、即ちボールのセット位置が高過ぎたか、イルカのジャンプ力が不足していたかの様に見えます。

6.あとがき
 8月下旬、初めてイルカウオッチングなるものを体験してきました。残念ながらジャンプを見るチャンスはありませんでしたが、自然界で自由に泳ぐイルカは予測できない方向にそれぞれが泳いでいます。当たり前のことですが、いつも海響館のプールで泳ぐ訓練されたイルカを見なれている眼には新鮮な感じがしました。予測が出来ないことが返って新鮮な感覚を与えるのかも知れません。

 今回の研究・調査は基礎調査でしたが、いままで調査した内容からボールジャンプが成功する理由に違った感想を持たれる方もおられることと思います。いろいろと想像しながらイルカのジャンプを観覧するのもまた愉しいのではないでしょうか。きっと新しい発見があるでしょう。

 拙文に半年間お付き合いいただき感謝いたします。素人の基礎調査の段階で結論もどきの回答をだすことはできませんが、イルカパーフォーマンス観察の参考になれば幸いです。

 最後に本稿連載を薦めてくださり、素晴らしいイラストをアレンジし拙文を補っていただくなど全面的にバックアップして頂いた魚類展示課の杉山さんにお礼申し上げます。


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